SCALE Founder/PR ACADEMY 学長の本田哲也が、PRや広報、マーケティング業界の一線で活躍する有識者を招き、PRパーソンに必要不可欠なスキルやマインドセットを講義形式で学ぶ「SCALE PR ACADEMY 第3期」がいよいよ開講となる。
今年も、SCALEが独自に定めた5つのコンピテンシーモデルをもとに、5月から全5回に分けて開催していく予定だ。
第3期アカデミー開講に先立ち、去る4月19日には「SCALE PR MEET UP / ACADEMY 第3期 開講式」が行われた。
登壇者には株式会社メルカリ取締役President(会長)の小泉 文明氏と本田 哲也を迎え、企業成長と広報・PRの関係性や理想のあり方について討論がなされたほか、SCALEの新たな取組みについても発表された。
PR戦略を立て、いかにレバレッジを効かせられるかが重要
まず冒頭では「企業成長とPublic Relations」をテーマに、PR ACADEMY学長の本田がメルカリの小泉氏にさまざまな質問を投げかけた。
いまや全国に2,000万人のユーザーを誇り、日本を代表するサービスへと急成長を遂げたメルカリ。
その裏には、広報・PRの果たした多大なる役割があってのことだと言えるだろう。
小泉氏はメルカリの急成長を振り返りつつ、「広報やPRの力は未だに重要だと思っている」と心境を語る。
「私はメルカリに参画した初期の頃からPRに関わってきました。そんななかで、スタートアップにおける広報やPRのゴールとしては『サービスやプロダクトの認知』と『優秀な人材の採用』の2つに尽きます。会社を成長させていくためには、この2つを追求することがキードライバーになり、PRパーソンもまさにフォーカスすべき点だと思っています」
本田は、小泉氏が広報・PRを重要視していることについて「その原体験はどういった経験に紐づくのか」と疑問を投げかけた。
それに対し、小泉氏は「スタートアップはヒト・モノ・カネが恵まれない状況で、いかに会社を知ってもらい、採用やサービスの認知につなげるかを本気で考えたことに行き着く」と語る。
「スタートアップの初期フェーズでPRの効果を最大化させるには、戦略を立ててレバレッジを効かせられるかが肝になります。そういう意味でも、PRを武器にし、メディアにひとつ出ることでレバレッジを効かせていくことが生命線になるんです。私自身も、どうやったらレバレッジ効果を生み出せるか常に考えていました」
山を作り、波及効果を最大化させていく
こうしたなか、メルカリではレバレッジ効果を最大限に出すために、「山をどう作るか」というのを意識していたという。
「対外的に見て、一番わかりやすいのが資金調達のタイミングでした。投資家から評価され、かつ求職者も会社への信頼や安心感を抱く。そのため、資金調達に合わせて採用ホームページを更新したり、『〇〇万インストール達成』などのニュースを発信したりすることで、大きな山を作っていくことを心がけていました。
こうすることでメディア露出はもちろん、採用や会社自体のバリューアップにも好影響を与えることができます。メルカリで工夫したのは、あえて流通高を指標として開示しなかったこと。ともすると、数字を出すことで競合他社を刺激してしまうことにもなりうるので、どういった数字を外に出すか/出さないかを考えるのも、競争を勝ち抜くための戦略のひとつだと考えています」
こうしたPR周りの戦略立案や実行を、初期の頃はすべて小泉氏が担っていたわけだが、本田は「メルカリの成長のフェーズに合わせ、広報やPRチームをどのように組成していったのか」と質問した。
「初期のフェーズ1の頃は、いわば『攻めの広報』としてプロダクトの認知や利用シーンの喚起など、短期的な戦略を練ってPR施策を実行していました。それが、現在PRグループのディレクターを務める矢嶋が入ったのを機にフェーズ2へ移行し、IPOを見据えたPRを意識するようになったんです。要はその場凌ぎの対応から、ブランドを意識し、どうパーセプションを作っていけばいいのか。
ひいてはリスクマネジメントやステークホルダーとのコミュニケーションなどを念頭に置き、中長期的なPR戦略を構築することで、メルカリの社会的価値をどう高めるかを考えるようになりました。そして、IPO後のフェーズ3がまさしく今の状況で、めまぐるしく変わる社会に対し、メルカリとしてどのようにD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)やESGに対応していくのかをPRの文脈で発信していくことに取り組んでいます」(小泉氏)
PR部門を作る際は、社内における「情報流通」の設計も必要
現在は、HRやコーポレート、メルカリ本体のプラットフォーム事業、フィンテックなどそれぞれの領域ごとに広報機能を分け、メルカリブランド全体としてPRに取り組んでいる。
その一方で、広報チームは「頼られる存在」として社内から慕われ、多くの情報が集まってくる状況を作り出せているという。
本田は「いわゆる“社内エージェンシー”のような、受発注関係になっていないのが、メルカリのPRチームの強さであり、これこそ健全な姿だと思う」とコメントした。
小泉氏は「広報やPRは、最も事業に直結する役割だと思っていて、その関係性を生み出せるPRチームを作れるかが鍵になる」と話す。
「PRチームと他部署との間でインタラクティブにやりとりを行い、盛んに情報交換をしていますが、PR部門を立ち上げる際には社内における情報の流通も整理・設計しないと、良い成果は出せないと考えています。メルカリで言えば、PRチームと他部署とのハブになったのがオウンドメディアの『メルカン』です。
頻繁に更新することで会社としての動きを見せ、検索性を高めることでメディアへのアプローチがしやすくなることに加え、社内でいろんな施策を打つときに、『広報がメルカンでどう発信してくれるか』というのを社員が意識するようになりました。PRを担当する広報も、社内のニュースやアップデート情報を掴みにいき、自然と積極的に『変化』を探すようになる。こうした社員同士のコミュニケーションが活性化し、メルカンのコンテンツを作っていくうちに、広報の存在感が社内で増してきたように感じます」
リスクマネジメントは、SNSの反応までデザインするのが求められる
企業成長における広報PRの役割の中で、攻めの部分も大事ではあるが、近年において特に重要視されているのが「リスクマネジメント」だ。
小泉氏は「リスクマネジメントで言う『守り』はガードレールに例えるとわかりやすい」と述べる。
「会社が小さければ、車が小さいのでブレーキをきかせやすいわけです。これが、大きな会社になればなるほど、ダンプカーのような車の大きさになり、ブレーキを踏んでもすぐには止まれない。つまり、何が起きても大惨事にならぬよう、ガードレールをどう設計するかがリスクマネジメントで重要になります。もちろん、攻めのアクセルを踏んだときのバランスも考えながら、適切なガードレールの高さや大きさなどを考えていくことが求められます」
社会から自社がどう見られているかを考える一方で、経営陣も自社を客観的に捉えることが大切になるだろう。
リスクマネジメントは経営陣しか判断できないことであり、「PRパーソンは世の中の時流やトレンド、センシティブになっている事柄などを経営陣に伝える広聴活動が必要になる」と本田は見解を述べる。
小泉氏も「以前はプロダクトの不具合などのリスク対応が多かった」とし、現状のリスクマネジメントのあり方についてこう説明する。
「最近は『人』を起点にした問題が大きなトピックになっています。プロダクトのリスクに比べ、やはりどうしても改善するのが難しい。発信に対して社内の共通認識やモラルをどう持たせるのか、コンプライアンスを遵守するかが非常に重要になってくるでしょう。SNSというコントロールのしづらい媒体が台頭していることからも、尚のこと意識するべきだと思っています。
つまり、リスクマネジメントの観点から、SNSでどのような反応が起こるかまでデザインする能力がPRパーソンに求められているわけです。メルカリの初期は、『ニュースをどのように発信すれば、SNSでポジティブな反応が広がるか』を戦略的に設計するよう心がけていました」
SNSは諸刃の剣とも言われるが、デジタル社会に必要不可欠なSNSをうまく活用し、企業のバリューアップにつなげていくことがPRパーソンの役目であり、やりがいに感じる部分でもある。
2014年2月に「The life always new」をコンセプトにCINDERELLAを創業。ジャンルに問わず、キュレーションメディアやSEOライティング、タイトルワーク、記事ネタ出しなどに携わる。
最近では取材ライターとして国内外の観光スポットやイベントに足を運んだり、企業ブランド・サービスのインタビュー取材を主に従事。
またSNSや繋がりのあるPR会社から送られるプレスリリースをもとに、執筆依頼をいただく場合もあり、活動は多岐にわたる。
モットーはメジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ること。ビジネス、旅行、イベント、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に社会のA面B面を深堀していく。
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