広報・PRをはじめとする、すべてのビジネスパーソンが継続して学び続けられる「SCALE PR ACADEMY」。
第6期目を迎えた今年度も、一流講師陣による講義が予定されている。
4月25日には「SCALE PR MEETUP 2025 / PR ACADEMY 第6期 開講式」を開催。
登壇者に工藤 萌氏(株式会社スープストックトーキョー 取締役社長)を招き、本田 哲也(SCALE Founder/PR ACADEMY 学長)との対談企画を実施したほか、SCALE PR ACADEMY 第6期の講師陣や新しいプログラムの紹介が行われた。
「広報は企業の人格を体現する」。経営に寄り添う“触媒”としての役割
前半は、工藤氏と本田によるKeynote Session。
「企業成長とPublic Relations」をテーマに、企業成長と広報・PRの関係性や理想のカタチについて活発な議論が交わされた。冒頭では、工藤氏のキャリアから考える広報・PRの視点やあり方を深掘りしていく内容となった。
工藤氏は新卒で資生堂に入社後、13年ほどマーケティングに従事。バイオテクノロジー企業のユーグレナでは、マーケティング部門の立ち上げや経営に携わってきた。そして、2023年8月にスープストックトーキョーへ入社し、昨年4月から取締役社長を務めている。
マーケターとしてのキャリアを歩むなかでも、「このブランドは社会に対してどんな価値を届けられるのか」といった問いと常に向き合いながら、その時に必要だと思ったことをひたすら実践してきた結果、今のキャリアにつながっていると工藤氏は述べた。
一貫して、マーケティングやブランディングに携わってきたなかで、「広報に対する期待値も以前に比べて変わっている」と工藤氏はコメントした。
「これまで広報・PRといえば、正確に情報を伝えたり、メディア露出を増やしたり、危機対応やメディア・SNS対応、プレスリリースの作成などが主な役割として認識されてきました。いわば、広報はあくまで実行部隊や補助的な役割として捉えられていたわけです。
それが今では、企業の“人格”を体現する機能だと思っています。まさに一昨年、スープストックトーキョーが発表した『離乳食の無償提供』に関する出来事を通して、広報の本質的な力を再認識しました」(工藤氏)
企業のパーパスや哲学を外部に発信すること。あるいは社会との対話を通じて共感を生み出すという観点から見れば、広報の役割は単なる情報の伝達ではなく、社会との関係性を築き、企業の存在意義を伝えていくことだ。さらには、社内(インナー)に向けても自発的なエンゲージメントを高める力を持っている。つまり、広報と経営の距離は非常に隣接していると言えるわけである。
「現在、私自身は経営の立場にありますが、もはや広報は経営における重要なパートナーそのものです。なので、広報は経営の一部であり、組織文化を育てる“触媒”のような存在だと捉えていますね。そういう意味では、『経営とブランド』や『経営と社会』の間にある境界線も広報やコミュニケーションの力を借りながら、対話の“場”へと変えていくことが大切だと思います」
工藤氏がそのように感じたのは、スープストックトーキョーに在籍する広報メンバーと一緒に仕事をしていくなかで、「広報とはこうあるべき」という固定観念にとらわれず、経営の“語り部”として存在していることを再認識したからだという。
企業姿勢を貫いた「離乳食の無償提供」
そんななか、前記した「離乳食の無償提供」の表明は、社会的にも大きなインパクトを与える話題となった。発表タイミングの選び方やメディアへのアプローチ方法など、広報戦略としてどのような工夫を行ったのだろうか。
実際のところ、明確な広報戦略があったわけではなく、一部店舗で試験的に実施していた「離乳食の無償提供」を全店舗に広げるお知らせを発信したところ、思いがけず大きな反響を呼ぶ結果となったそうだ。
「こちらとしてもまったく想定していなかった展開で、対応に戸惑いながらもどうすべきかを必死に考える状況でした。ただ、発表から1週間後には実際のサービス提供が始まる予定だったため、それまでにこの取り組みに込めた思いや背景をきちんと伝える必要があると判断し、そこに注力しました。
SNS上ではさまざまな声が飛び交うなかで、私たちの意図が正しく届かず、誤解から批判的なご意見をいただくこともありました。だからこそ、なぜこの取り組みを始めたのか。どんな背景があり、どのような思いで続けてきたのかを真摯にお伝えすることを心がけました」(工藤氏)
人として、企業として、真っ直ぐにコミュニケーションに向き合ったことで、最終的には企業姿勢への共感と称賛の声が多く上がったのだ。
その一方で、「離乳食の無償提供」を発表した当初は、世の中の論調が日々めまぐるしく変わっていたこともあり、「下手に早まって発信することで、逆に炎上を再び招いてしまうリスク」の怖さも感じていたという。
しかし、今回の件は健康被害のような即時対応が求められるものではなく、状況をしっかりと整理し、どう伝えるべきかを入念に考えるのが大事だと考えた。
そのため、ステートメントを発表するまでに1週間という時間を要したそうだ。
「ステートメントを発表する際には、『なぜ1週間の沈黙があったのか』という点にも触れてました。そこも包み隠さずに、私たちが大切にしている“誠実さ”や“透明性”を、ブランドとしてどう体現するかを大事にしながら言葉を選んだのです」
また、ステートメントの発信者を社名や代表者個人ではなく、「株式会社スープストックトーキョー一同」と記載したのも、ブランドとしての強い意思をより明確に伝えるこだわりだった。
「スープストックトーキョーの企業理念は『世の中の体温をあげる』というもので、『離乳食の無償提供』も単なる施策ではなく、その理念を体現する取り組みだったんです。小さなお子さま連れのご家族が、ゆっくり食事を取れる場所が少ないなかで、私たちが少しでも寄り添いたい。そんな社員一人ひとりの熱い想いから始まりました。
この理念は、決して会社や社長だけのものではなく、現場で働くメンバー全員のものです。そのため、ステートメントに関しても『株式会社スープストックトーキョー一同』として発信しました」
2014年2月に「The life always new」をコンセプトにCINDERELLAを創業。ジャンルに問わず、キュレーションメディアやSEOライティング、タイトルワーク、記事ネタ出しなどに携わる。
最近では取材ライターとして国内外の観光スポットやイベントに足を運んだり、企業ブランド・サービスのインタビュー取材を主に従事。
またSNSや繋がりのあるPR会社から送られるプレスリリースをもとに、執筆依頼をいただく場合もあり、活動は多岐にわたる。
モットーはメジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ること。ビジネス、旅行、イベント、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に社会のA面B面を深堀していく。
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