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コラム

2021-05-12

SCALE PR ACADEMY 第2期 第1回開講式

 
昨年6月に開講し、好評のうちに幕を閉じた「SCALE PR ACADEMY 第1期」。

SCALE Founder/Dean of Academyの本田哲也が、様々な有識者らとディスカッションを重ね、独自に開発した5つのコンピテンシーモデルをもとに、今年も「SCALE PR ACADEMY 第2期」を5月から全5回に分けて開催していく。

昨年に比べ、今期は広報PR、メディア、マーケティング領域において第一線で活躍する
客員講師陣をさらに増やし、よりパワーアップした内容でPRパーソンに求められるスキルやマインドセットについての講義を展開していく予定だ。

アカデミー開講に先立ち、去る4月20日には「SCALE PR ACADEMY 第2期」の開講式が行われた。

登壇者には広島市立大学 広島平和研究所 准教授氏の河炅珍氏、近畿大学 経営戦略本部長の世耕石弘氏を招き、研究者の立場から考えるPRの勘所や、大学広報としてのPRコミュニケーションで意識していることなどについて議論を深めた。
 

SCALE PR ACADEMY開講の経緯

 
昨今、日本における広報・PRニーズはますます増大している。

さらに、コロナ禍で社会状況は一変し、より一層PRに求められる役割が多様化したと言えるだろう。
 

 
冒頭のイントロダクションではSCALE PR ACADEMY学長の本田が、アカデミーを開講した背景について述べた。

「昨年第1期を開講し、SCALEが定めるコンピテンシーモデルをもとに講義を行いました。おかげさまで、SCALEの登録者は500名を超える規模になった一方で、アカデミーで学ぶコンピテンシーは、一度ならず何度も繰り返し学んでいく必要性があると感じています。多様化するPRニーズへ応えるために、現場で活躍できるPR人材育成の観点から、今期も継続開催する運びとなりました」

PRと一口に言っても、コーポレートコミュニケーション、マーケティングPR、スタートアップ広報など実に様々だ。

企業やフェーズごとにPRの役割が異なるのはもちろん、大局的な視点から世の中の動きを汲み取るには、PRパーソンの力量も試される。

しかしながら、PRにおけるコンピテンシーが確立されている海外に比べ、日本はまだまだ十分ではない。PRパーソンを必要とする組織や企業が増えるなか、本田は次のような課題が存在するという。

・広報PR人材が不足している
・企業とPRパーソンのミスマッチが生じている
・フレキシブルな人材供給ができていない
・広報、PR人材のスキルを体系的に向上ができる環境がない

これらの課題を踏まえつつ、現場に活かせるスキルセットやマインドセットを学べるのがSCALE PR ACADEMYなのだ。

「SCALE PR ACADEMY が、PRパーソンが継続して学びを得られる機会を提供することで、あらゆるPRニーズに応えられる人材を輩出し、日本のPR業界を変えていく。このような想いを持ち、今期もSCALEコミュニティを盛り上げていきたいと思います」
 

建学の精神を踏襲した近畿大学の広報術とは?

 

 
続いて行われた第1部キーノートセッションでは、世耕石弘氏が近畿大学(以下 近大)の広報について深く掘り下げる場となった。

世耕氏と言えば、近大のブランディングやPRコミュニケーションを手がけ、一躍人気の大学へと躍進させた立役者として知られている。

著書『近大革命』では戦略的広報について触れたり、企業・行政からの講演を年に何回もこなしたりするなど、PRパーソンとしての手腕に多くの注目が集まっているのだ。

「PRや広報とか、ブランディングとかあまりこだわらず、我武者羅(がむしゃら)に発信していくことを心がけてきた」という世耕氏は、「近大の建学の精神を踏まえ、大学の魅力が伝わるよう意識している」と語る。

「近大は創立以来、『実学教育』をモットーにしています。これは長い大学の歴史の中でずっと守り続けてきた考えであり、企業でいえば企業理念のようなもの。しかし、この実学教育というのは、本来は専門学校でやるべきものという大学界の風潮があるため、他校からは異端児として見られていたんです。また近大は、1925年に創立された比較的新しい大学で、100年200年続く大学に比べて誇れる歴史や伝統がありません。その分、新しいことへの積極的なチャレンジ精神を持って、近大を世間にアピールするための広報活動に取り組んできました」
 

PRの力によって固定観念や思い込みを払拭する「近大流コミュニケーション戦略」

 
しかし、近年の大学を取り巻く状況は年々厳しくなっていると言える。

18歳人口が減少し、大学へ進学する学生の数が少なくなっている現状からも、将来は閉校する大学や統合の波が訪れ、大学が淘汰される時代が予想される。

こうした状況下で、世耕氏は近大のPRについてどう考えているのだろうか。

「私がやってきたPRは“近大流コミュニケーション戦略”とよく言っていますね。その中で意識しているのは、PRの力によって『人の頭に言葉として認知されているものを払拭させる』こと。例として、大学をグルーピングするときに“旧帝大”や“早慶”、“MARCH”、“関関同立”、“産近甲龍”などという言葉が定着していますよね。受験の世界では、もうほとんどこの言葉内で縛られているんです。一度言葉として括られ、人の頭にインプットされると、なかなかステレオタイプを取り除くのは難しい。このようなジレンマを抱えつつも、機転を利かしたPRコミュニケーションを考え、PRの力によって発想の転換が図れるよう、心がけています」

近大の名声を高めたのが、言わずもがなクロマグロの完全養殖に成功した「近大マグロ」だろう。

水産研究所が1970年から研究を始め、2002年6月に世界初のクロマグロ完全養殖を達成した苦節32年のプロジェクトは、相当のインパクトを誇るものだった。

世耕氏は「近大マグロは、まさに実学の精神から生み出された研究成果であり、近大を象徴するにふさわしい功績」とし、PRコミュニケーションに取り入れる背景について
こう説明する。
 

 
「近大に対する世の中のイメージは“マグロ”なんです。どんなに綺麗なキャンパスやスマートさを取り繕っても、そのイメージは変わらない。とかく大学のプロモーションやイメージ戦略では『おしゃれで素敵なキャンパス』や『優秀で博識高い知性と教養が身につくカリキュラム』などを強調しがちで、そんな横一線の訴求をしても定評ある有名校や伝統校には敵わないんです。だったら、世の中のマグロに対するイメージを具現化し、近大をアピールする材料にしようと考えたのがマグロを前面に打ち出した広告です。“見た瞬間に近大と想起してもらう”ようなコミュニケーションを行えば、自ずと近大に興味関心を寄せるきっかけにもなります」
 

PRに大事なのは「伝えたか」ではなく「伝わったか」

 
また、大学界に先駆けてインターネット出願を取り入れたことでも話題となったり、ネガティブな印象を持たれていた養殖マグロを逆手に取った養殖魚専門料理店「近畿大学水産研究所 」には行列ができるなど、大きな反響を生み出していった。

かくして近大の認知度は年を追うごとに上がっていき、大学人気ランキングでは上位にランクインされるなど大きな成果として現れるようになったのだ。

「近大流コミュニケーション戦略を貫いてきたことで、近大の志願者数は8年連続日本一になるなど、着実に世の中の人へ大学の魅力が伝わったと実感していますね。PRで大事なのは発信者側であるがゆえ、『伝えたのかではなく、伝わったのか』が大切なんです。PR視点で物事を考えたつもりで発信しても、受け手側に伝わっていないと意味がありません。私自身、PRは企業を活性化させるだけでなく、人の思い込みや彫り込まれた固定観念も変えていける力があると考えています。近鉄時代から含めると20年以上にわたって広報コミュニケーション領域でキャリアを積んできましたが、これからも近大を、そして世の中を変えていけるようなPRを手がけていきたいですね」
 

「大卒=ワンプロダクト」が通用しなくなってきている

 
第2部では、広島市立大学 准教授の河氏が加わり、世耕氏とともにグループセッションを繰り広げた。

まず、河氏はキーノートを振り返った上で、「戦後の歴史の中で、日本の大学は企業に人材を供給する役割を担い、社会との間でパートナーシップを築いてきたが、時代とともにその仕組みに修正が求められている」と述べた。
 

 
「日本の大学の歩みとして、戦後の高度経済成長、ベビーブームを通じて大学進学率が上昇してきました。大学に進学し、卒業することが、より多くの人にとって望ましい目標とされ、大学は企業や社会から、いわば『人材というプロダクト』を安定的に供給することを求められるようになった。大卒という切符を手に、企業へ就職していくという流れが作られてきたわけです。

 本来、大学はより多様な役割や社会的機能を担うことができる組織ですが、「大卒」という単一の商品が重視され、強くなっていくにつれて、逆説的に、教育という本質的サービスの水準でも差別化が図れなくなる問題が出てきました。また、日本では「社会人」としてのアイデンティティを強く意識するようになるのは就職後と思われ、大学を中心としたコミュニティづくりが、アメリカをはじめ、海外大学と比べて活性化しにくい状況がありました。

 こうしたなかでは、組織のコミュニケーション戦略でも個性化を図ることができず、どこも一般的な「大学らしさ」をアピールしたり、あるいは、偏差値別で括るグルーピングに焦点を絞ったりと、大学広報・PRも周辺的な役割しか果たせなかったのでしょう。
 
しかし、今日では、大学が人材を送り込んできた企業そのものに革新と改革が求められ、社会の制度も問い直されています。今後、企業と大学のパートナーシップにも変化が生じることが考えられ、大学は企業に頼らず、自らの組織や、他者である学生を中心にアイデンティティを形成し、今まで以上にコミュニティづくりに力を注がなければならなくなった。その意味では、近大のPR発想は、これまでの大学広報に一石を投じるもので、非常に参考になる事例だと思います」

他方、世耕氏は「真面目にふざけていく気概を大切にしている」とし、近大流コミュニケーション戦略の根本にある考え方について触れた。

「大学には歴史や立地、学部などそれぞれ特長があると思います。数多くの大学の中からポジショニングを確立し、入学の門を叩いてもらうには、昔からの古い慣習や考えを取っ払って、新しい方向性を模索していかないといけないんです。近大の場合はある種『面白いか、面白くないか』みたいな判断基準があって、細かい研究成果や教育の情報は伝えず、日本中の方が知ってもらえるようなPRネタを考え、発信することを意識しています。18歳の受験生がターゲットではありますが、専門の受験情報誌に広告を載せてもほとんど読まれない時代ゆえ、いかにインパクト重視で多くの人の話題に上がるかが肝になってくるわけですね」
 

PRは他者あってのもの。いかに他者理解できるか

 
学生に対し、どう魅力を伝えれば、選ばれる大学になるのか。

大学ごとに校風や教育方針などが異なるゆえ、「漠然とではなく、大学にとって重要な他者に光を当て、新しい関係性を見出していくことが大切」と河氏は言う。

「PRが目指す価値は、一言でいえば、他者によって定義され、承認されるものです。どの組織も、その内側と外側にいる他者に向け、関係性を築いていくことが求められます。つまり、PRコミュニケーションにおいてもっとも重要な問いは、組織にとって『真の他者とは誰なのか』をはっきりさせることでもあります。

 大学の場合、重要な他者といえば学生ですが、それだけでは不十分です。単に『学生』や『受験生』で止まってしまっていては、いつまでも抽象的な関係性から脱却できないでしょう。他者に意味を与え、積極的に発見していく試みが大切です。

 大学という組織には、学生をはじめ、教職員、卒業生や地域社会や研究開発に協力する企業など、様々な他者/ステークホルダーが存在しています。これらの他者に対するリサーチを重ね、具体的なイメージとともに浮かび上がらせること。他者を鏡として、大学は自己のアイデンティティを確認/再確認することが可能です。こうした他者への想像力を大事にすることから、大学の可能性や価値が明らかになってくると思います」

参加者からも、近大の手がけるPRコミュニケーションの具体的な手法に関する質問が多く寄せられた。

全体を通して感じたのは、近大の持つ実学教育に習うかのごとく、実戦で経験を積んでいること。すなわち、PR起点の話題作りを仕掛けるために施策を繰り返し、成功の確率を高めているわけだ。

「近大は年間で500本くらいプレスリリースを打っています。広報組織は広告や宣伝など担当分けしていないので、全員がリリースを書いている状況です。大学で出せる情報を色々なところから掘り出してきて、リリースを打っているんですが、いわば反復練習のようなもので、次第にメディアのウケがいいネタがわかってくる。他校含め様々なネタの切り口やケースを見ながら研究し、いかに打率を高められるかを心がけています」

また、PRをする上で「人力」と「馬力」といった観点から、確実にできることを積み重ねているという。

「例えば大学の教授や研究者へ取材が入った際は、必ず広報が立ち会うようにしています。これは記者さんの名刺がもらえるからなんですが、こうした小さいことの積み重ねから、メディアリストが増え、どうしても取り上げてもらいたいネタがあった時も個別アタックできます。泥臭いこと、数をこなすことはやはり大きな反響を生み出すために重要なことだと考えています」

世耕氏の考える近大流コミュニケーション戦略。大学に通う当事者ではないPRパーソンや広報担当者にとっても、大いに参考となる事例なのではないだろうか。


次回からは、SCALEが定めるコンピテンシーモデルに沿って、さらなるPRの知見やノウハウ、抑えておくべきポイントについて登壇者らが解説していく予定だ。

乞うご期待してもらいたい。
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古田島大介

ライター
2014年2月に「The life always new」をコンセプトにCINDERELLAを創業。ジャンルに問わず、キュレーションメディアやSEOライティング、タイトルワーク、記事ネタ出しなどに携わる。 最近では取材ライターとして国内外の観光スポットやイベントに足を運んだり、企業ブランド・サービスのインタビュー取材を主に従事。 またSNSや繋がりのあるPR会社から送られるプレスリリースをもとに、執筆依頼をいただく場合もあり、活動は多岐にわたる。 モットーはメジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ること。ビジネス、旅行、イベント、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に社会のA面B面を深堀していく。
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