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コラム

2020-08-20

SCALE PR ACADEMY_第2回 マルチ憑依力 Multiple Stakeholder Adaptability

次世代のPR人材を育てるために、広報・PRやマーケティング分野の第一線で活躍する人物を客員講師として招き、半年間に渡る講義のもとで行われる「SCALE PR ACADEMY」。 先月の開講式(https://scale-pr.com/column/AVMES)に続き、去る7月28日には第2回「マルチ憑依力 Multiple Stakeholder Adaptability」がオンラインにて開催された。

 

広報実務の現場から考えるマルチ憑依力

 

 
第2部はWorking Sessionと題し、株式会社メルカリでPRチームのマネージャーを務める矢嶋氏が「マルチ憑依力~広報実務の現場から~」をテーマに、現場に即した広報の考え方やマルチ憑依力を身に着けるためのポイントについてセッションを行った。

矢嶋氏は、ネットベンチャー2社、PR会社を経てNEVERのPR・マーケティングを担当。その後、LINE及び周辺サービスのPR・マーケティング、2017年からはメルカリへ入社して現在に至る。

これまで、IPOコミュニケーションやカンファレンスの運営、M&Aなど幅広く手がけてきた立場から、改めてPRについての考え方を冒頭で語った。

「企業がPRを行う目的は『メディア露出の最大化』ではなく、自社を取り巻く多様なステークホルダーとの『関係性のマネジメント』にあります。単に情報を露出するだけでなく、社内外に対して影響力を発揮し、社会との良好な合意形成を築くことがPRに求められているのです。その中で、多様なステークホルダーとの関係性を構築するためには、まるで『憑依』するかのごとく、それぞれの立場でのインサイトを見極め、瞬時にコミュニケーション方法を切り替えること。つまり、”マルチ憑依力”が鍵を握るわけです」
 

マルチ憑依力が求められる背景

 
PRはとかく、メディア露出の最大化を狙うために企業の業績向上や一方通行な情報発信をすることにフォーカスしがちだ。

しかし、企業とステークホルダーとの双方向のコミュニケーションが、自社のサービスに対して好意的な流れを作り、パーセプションチェンジ(行動変容)を起こすことに繋がる。

いかにステークホルダーマネジメントがPRにとって重要か、身を持って体感してきた矢嶋氏は、マルチ憑依力が求められる背景をこう話す。

「企業がメディアの先にいるステークホルダーとの”関係性”をなぜ作る必要性があるのか。それは、競合企業含めた社会や世の中の動向を掴み、時流と自社の文脈の掛け合わせによるレバレッジの最大化、または想定されうるリスクの最小化を行う上で、ステークホルダーそれぞれの状況を把握し、適切にコミュニケーションしていくことが大切だからです。自社のことばかりにならず、企業を取り巻くステークホルダーを理解し、インサイトを掴むためにはマルチ憑依力が不可欠だと考えています」

メルカリのPRチームではメディアを「社会を映す鏡」と捉え、メルカリが目指すビジョンや世界観、サービス価値をプレスリリース配信や取材対応などのパブリシティ活動を通じて、広くあまねく社会に伝えることを意識しているという。

さらに、メルカリを取り巻く多様なステークホルダー(ユーザー、従業員、取引先、行政、株主など)との継続的な信頼関係を構築し、メルカリの共感者・ファンの醸成をミッションに取り組んでいる。

メディア側だけでなく、マルチステークホルダーとのコミュニケーションをするにあたって、社会の流れや世の中の動向などの大局的な視点を持つことがPRパーソンに必要なのではないだろうか。
 

高まるマルチ憑依力のニーズ

 
矢嶋氏は、広報の現場でマルチ憑依力が求められる4つのニーズについて説明した。

1.ESG/SDGsの隆盛

大量生産、大量消費。品質の高い商品を作り、莫大な広告費を投じてヒットを生み出す。

とりわけ、企業は業績を指標とした経営をこれまで重視してきたが、これからの世の中は短期的な収益ではなく、社会との良好な合意形成を通じて持続可能な成長をしていく必要がある。

地域社会への貢献や、ダイバーシティ推進、ESGやSDGsを意識した取り組みなど、企業が社会に果たすべき役割の多様性が生じているからこそ、改めて企業のあり方や取り組み姿勢が問われている。


2.グローバル・デジタルシフトの加速

テクノロジーの発達により、シェアリング・エコノミーや民泊、電子捺印など新しいサービスが誕生した。だが一方で、新たなビジネスモデルでサービスを運用する際、現行の法体系と実状が伴っていないケースが増加している。

つまり、”法”という壁を乗り越え、合法の範囲での健全なビジネス展開、ひいては法秩序を構成する国や社会とのポジティブな関係性を作っていくことができなければ、事業スケールに繋がらないということだ。

事業をスケールさせたくても、法律の壁が立ちはだかる。こうした事態を少しでも変えていくために、業界団体としての見解を示したり、省庁とのロビー活動を行ったりすることの重要味が帯びてくるという。

3.情報流通構造の変化

マスメディアの影響力が低下し、代わりにソーシャルメディアが台頭したことで情報発信がしやすくなった。

企業が伝えたいこと、取り組んでいることを社会に対して示しやすくなった反面、世間の関心・空気を読み間違えたり、一方的に価値観を押し付けたりすれば、たとえ「良かれ」と思ってやった行動でも炎上し、避難を浴びる対象になってしまう。

社会の「空気」やステークホルダーのインサイト・関心を理解することが、広報担当に求められている。

4.新型コロナウイルス感染拡大・長期化に伴う社会構造の変化

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大は、既存の社会構造の変化をもたらしうる事態にまで発展している。

人と自然や社会とどう向き合って生きてくのか。あるいは、ポストコロナ時代における新しい価値観の定義など、ニューノーマルに沿ったワークスタイルや企業の営みが顕著になってくると予想される。
 

広報は社内外のコミュニケーションのハブとなること

 

 
これらマルチ憑依力のニーズが高まる中、PRパーソンはどのようにしてマルチ憑依力を身につければ良いのだろうか。

矢嶋氏は「時流・ステークホルダー・世論の形成構造の理解」を基本とし、”攻めと守り”を意識した社内外のコミュニケーションのハブになるのがPRパーソンの担う役目だと説く。

「業界トレンド、グローバルの動向や働き方などの『メディアの報道』と専門家や業界に精通した記者、インフルエンサーによる『SNSでの論調』をモニタリングし、時流やステークホルダーの関心ごとをウォッチすること。幅広く世間の関心やトレンドを把握することが大切であると同時に、世論の形成構造を理解する必要があります」

もし、業界内での評判や自社のユーザーの声のみに注視してしまえば、社会的世論や認識を見誤る可能性もある。

それが元となり、一度ネガティブなパーセプションが形成されると、ポジティブへ転換するのは難しく、事業機会の逸失、成長の阻害要因となってしまうだろう。

「企業の評判はユーザーだけが作り上げるものではなく、有識者やオピニオンリーダー、政治家、SNSでの声などサービスを利用していない“周縁の人”から影響を受けて、世論が作られていきます。『信頼を失うのは一瞬。取り戻すのは一生』と言われますが、世の中の文脈を理解していないと、ふとしたアクションが良からぬ方向へと転がってしまい、取り返しがつかなくなる可能性もある。こうした状況の中で、PRパーソンは全体のバランスをうまく取りながら他部門と連携し、社内外へのコミュニケーションを推し進める中心的存在として立ち回ることが重要でしょう」

PRパーソンが、社内外のコミュニケーションの中心的存在になる。

幅広の視点と知見とを持ち合わせ、マルチステークホルダーとのリレーションを築いていくことが重要だろう。

企業としてのパーパス(存在意義・価値)やナラティブ(言語化力)を持ち、あらゆるステークホルダーに対し、一貫性のあるスタンスやメッセージを発信していく。

世の中を客観的な視点で見ること。
そして、ステークホルダーとの関係性を構築するために、常に先回りしてPR活動を行う。

マルチ憑依力はまさに、PRパーソンの基本のきであり、必要不可欠なコンピテンシーなのではないだろうか。

第2部の後には、新規マッチングサービスのローンチに見立てたコミュニケーション戦略を立案するワークショップも実施。

参加者はマルチ憑依力に関するインプット、アウトプットの両方を体感する会となり、学びの深いセッションとなった。

次回は、PR主体の「代弁者=スポークスパーソン」として判断し、行動できる能力「背負い力」について掘り下げていく。
 
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古田島大介

ライター
2014年2月に「The life always new」をコンセプトにCINDERELLAを創業。ジャンルに問わず、キュレーションメディアやSEOライティング、タイトルワーク、記事ネタ出しなどに携わる。 最近では取材ライターとして国内外の観光スポットやイベントに足を運んだり、企業ブランド・サービスのインタビュー取材を主に従事。 またSNSや繋がりのあるPR会社から送られるプレスリリースをもとに、執筆依頼をいただく場合もあり、活動は多岐にわたる。 モットーはメジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ること。ビジネス、旅行、イベント、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に社会のA面B面を深堀していく。
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