SCALE POWERED BY PR

コラム

2020-11-20

SCALE ACADEMY_第5回 ナラティブ力 Narrative Power

毎回、PRパーソンに求められるコンピテンシー(行動特性)について紐解く「SCALE PR ACADEMY」。 第5回目を数えるセッションは「ナラティブ力(Narrative Power)」をテーマに、SCALE Founder/Dean of Academyの本田哲也と株式会社マテリアル執行役員兼Executive Storytellerの関 航氏が登壇。

 
「語りかた」や「語り口」などと解釈されるナラティブは、近年PRパーソンにとって必要不可欠な発想だ。

PR戦略を立てるにあたり、目先のプレスリリースや発表会などの手段にとらわれず、「世の中に対して語る」という発想のもと“ダイナミックで魅力的なストーリーテリングを構想”することが、目まぐるしく変化する情報化社会において大切になるだろう。

これからのPRになぜ、ナラティブの発想が重要なのか?また、社会の流れを読み、数ヶ月先の未来を見越した脚本設計はどのように組み立てればいいのか?

現場の第一線で活躍する登壇者らが、ナラティブ力の勘所を掘り下げるセッションの様子をお伝えしたい。
 

「ナラティブ」と「ストーリー」の違い

 
第一部のInspiring Sessionでは「今注目を集める「ナラティブ」~」と題し、SCALE PR ACADEMYを主宰する本田自身が「ナラティブ」という概念や、ナラティブの発想に立ったPRの重要性、実際のPR事例の裏側に描かれたナラティブの筋道について説くセッションとなった。

辞書的な言葉の意味では「叙述すること」や「語り口」を表すナラティブだが、ことPRにおいては「物語的な構造」として捉えていると本田は話す。

「企業活動はマーケティングや広告から採用、商品開発にいたるまで何らかのストーリー性をはらんだ構造の中で行われる。その物語には消費者やユーザーのほか、従業員や取引先、株主などあらゆるステークホルダーが登場し、そして企業活動にある種、巻き込まれる形で関わっています」

ここで1つ疑問を呈したい。

広報・PRではストーリーテリングが大事だというのが定石になってきている。
企業ブランディングを強化するためにも、いかに魅力的でかつ世の中から共感されるストーリーを語れるか。

このような文脈で現場ではよく用いられるのではないだろうか。

ナラティブはともすると、ストーリーと同じような意味合いで考えてもいいのでは。このような疑問を持つ中、本田はナラティブとストーリーの違いについて次のように説明する。
 

 
「どちらも起点は創業者やブランドの想いですが、いくつか異なる点があります。まず、関係性の側面で見ると違いがわかりやすい。例えば『誰のためのものか』という視点で見れば、ナラティブは社会全体を客観的に捉えて『世の中に対して語る』ことですが、ストーリーは「市場の中で企業やブランド単体で語る」ことを前提としています。また、ナラティブに沿って行うアプローチには消費者やユーザー自身も参加できるのに対し、ストーリーは企業のフィロソフィーやビジョンを一方的に消費者へ伝えるだけにとどまる。つまり、PRの主体となる語り口が『世の中全体か単体か』で考えると違いがはっきりするでしょう」

経済活動は、社会情勢に大きく影響する。今回のようにパンデミックに伴い、消費者を取り巻く環境やライフスタイルは一変した。

まさに激動の時代に晒されているからこそ、企業単体ではなくナラティブな視点でPRを考える必要があるわけだ。

「ナラティブはストーリーのようなハッピーエンド(完成)はなく、常に現在進行形で発展しているのも大きな特徴の1つとして挙げられるでしょう。社会全体を俯瞰する視点を持ち、いかにステークホルダーとともに共創してナラティブを生み出していけるかが大切になってきます」(本田)

すでにシナリオが完成されているストーリーを一方的に発信するのではなく、企業のビジョンやミッション、パーパスなどに沿ったナラティブを描けるかが、これからのPRパーソンに求められる重要な行動特性になるのではないだろうか。
 

ナラティブを体現したPR事例

 
ここからは実際の事例をもとに、ナラティブを体現したPRについて紐解いていく。
 

①ワールド

 
大手アパレルメーカーのワールドは、販売から企画、製造まで一貫して行うSPAモデルを
業界に先駆けて構築し、ファッション業界を牽引してきた企業だ。しかし、近年はファストファッションやEコマースの台頭によって苦戦を強いられ、業績が低迷する時期もあった。

巻き返しを図ろうと2018年から掲げた新たな「ファッション・エコシステム」は、長年同社が培ってきたファッション産業の共通基盤をプラットフォームとして解放し、業界の底上げを狙う構想だ。

余剰在庫や商品廃棄といったファッション業界の課題に対し、ワールドの持つ知見を生かして解決していくために構想を描いたわけだが、当初はBtoBのサービスゆえ専門誌には取り上げられるものの、ビジネス誌には露出が狙えない地味なイメージだったという。

「古くて大きい過去のアパレル企業」から、「エコシステムを解放する総合ファッションサービスグループ」へとパーセプションを変えるため、注目したのが若手デザイナーによるD2Cブランドの支援や、ニューヨークでトレンドになっていたポップアップストアだ。

「次世代のファッション・カルチャーを作る担い手となるべく、実店舗を持たないD2Cブランドの支援を目的にしたポップアップ型百貨店を日本で初めてオープンしました。SNSを中心に、世界観に共感するファンから支持されるD2Cブランドは、今後のファッション業界において大きな潮流になりうる。そんな個の才能を開花させるために、これまでワールドが培ってきたエコシステムを生かし、業界全体の活性化に繋げようと画策した」

単なるBtoBのプラットフォームビジネスであれば、露出できるメディアも限られるだろう。

この事例のように、社会的なトレンドや業界全体の課題を認識した上で、PRの文脈をナラティブにしていった結果、業界紙以外のビジネス紙に取り上げられるようになったわけだ。

また、D2Cブランドのデザイナーやブランドのファン、ポップアップに訪れる消費者など、巻き込むステークホルダーも広げられたのが大きな成果だったという。
 

②UUUM

 
続いてはコーポレートナラティブの観点から事例を見ていきたい。

「HIKAKIN」や「はじめしゃちょー」を筆頭にYouTuberを数多く抱える企業のUUUMは2017年に東証マザーズへ上場。

次なるステージへと成長を果たすべく、既存の「YouTuberの芸能事務所」から「個人の力をエンパワーするコンテンツカンパニー」へと進化させる必要があった。

「スタートアップから規模拡大をし、上場を成し遂げたことで、認知度や信頼度は上がってはいるものの、どうしても“YouTuberの芸能事務所”という印象が払拭できない課題を感じていました。ナラティブの切り口を探すなかで着目したのは『個の時代の到来』でした。インフルエンサーが台頭したことで、個人の成功のあり方が多様化し、『個人経済圏』が拡大してきた。

 同時に、組織のあり方も『個人の成功』のために組織が機能する時代へと変わり、まさにパラダイムシフトを迎えようとしている。このような最中、UUUMは編集のノウハウからファンの獲得、資産管理に至るまでクリエイターサポートの『インフラ』として、個人の成功を変革する企業であることを打ち出しました」

SNSの発達によって、産業構造が企業から個人へとリプレイスされるなか、UUUMとしてのコーポレートアイデンティティを刷新し、新たな企業イメージを醸成することができた事例だ。

これをもとに取材誘致をしていき、パブリシティ獲得やPR施策に生かしたのだという。

Inspiring Sessionの締めくくりとして、本田はナラティブライティングのポイントについて次のように説明した。

「まず、企業が注力していることの『差別化要素と社会ニーズ』が合致していることが前提です。そこがずれてしまえば、企業の独断的なアプローチになってしまう。また、商品そのものをタイトルに持ってきてもブランドストーリーと変わらないので、ナラティブの主題を明確にすること。そして、想像した未来はこうなるべきという青写真を描き、未来におけるステークホルダーの体験を盛り込むことが重要になってきます」

ナラティブなPRコミュニケーションを具現化するために、広告代理店やPRエージェンシーなど様々なプレーヤーがいるなか、常に社会的な時流を読みながらナラティブを意識したストーリー設計する力がPRパーソンに求められることだろう。
 

企画書ではなく社会を動かす脚本設計をする

 

 
第2部のWorking Sessionでは「ナラティブ力 〜社会を舞台にした、脚本設計とは?〜」をテーマに株式会社マテリアルの関氏がセッションを行った。

同社のプランニングセクションの立ち上げに従事し、事業のPL責任にコミットするなど、常にビジネス成果を意識してクライアントワークを行ってきた立場から、実践に役立つナラティブの考え方やTIPSについて学ぶ機会となった。

カンヌライオンズを始め、国内外のアワードにて多数受賞経験のある関氏にとって、ダイナミックなストーリーテリングとはどのように考えているのだろうか。
 

 
「端的にまとめて言うと、社会を舞台にして『ブランドや企業のビジネス目標を実現させるためにステークホルダーと望ましい合意形成を作り出す』ことだと考えています。市況感やトレンド、社会情勢など目まぐるしく変わる世の中で、ブランドとステークホルダーをどう結びつければ、ビジネスの成果につながるか。それを実現するため、PRパーソンは『企画書ではなく社会を動かす脚本設計』を描くことが重要になってきます」

企業やブランドはいわば主人公そのものだ。社会を舞台にしたとき、最終的に“ある目的”を達成させるために様々な登場人物(ステークホルダー)から望ましいリアクションをもらえるようシナリオを作り、仕掛ける必要があるだろう。

ブランドだけが独りよがりになるのではなく、どうしたら社会から求められるのか。
PRパーソンが思い描いたシナリオを、どうすれば社会で実現できるか。

ダイナミックなストーリーテリングをプランニングする上で、関氏の考えはとても参考になるものだろう。
 

ナラティブの感覚を掴むために意識する4つのポイント

 
では、PRパーソンが実務レベルでナラティブの感覚を掴むためにはどのようなマインドセットが必要なのだろうか。

関氏は日々の業務で意識したことがいい4つのポイントを掲げた。
 

①「それはPRではなくパブリシティエグゼキューション業務かもしれない」という気づき

 
PRパーソンがナラティブを理解し、ものにするためには「パブリシティ・エグゼキューション」と「コンシューマー/生活者の理解」を切り分けて考えられるかどうかがまず鍵を握る。

とかくニュースバリューから考えがちだが、パブリシティ獲得はあくまで1つの手段であり、ターゲットとなる生活者のパーセプションチェンジを起こせなければ意味がない。

つまり、ブランドや企業がビジネスをスケールさせるためには世の中の人をどのように動かせばいいのか。あるいは動かすツボ(勘所)は何か見通しを立てることが必要だ。
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古田島大介

ライター
2014年2月に「The life always new」をコンセプトにCINDERELLAを創業。ジャンルに問わず、キュレーションメディアやSEOライティング、タイトルワーク、記事ネタ出しなどに携わる。 最近では取材ライターとして国内外の観光スポットやイベントに足を運んだり、企業ブランド・サービスのインタビュー取材を主に従事。 またSNSや繋がりのあるPR会社から送られるプレスリリースをもとに、執筆依頼をいただく場合もあり、活動は多岐にわたる。 モットーはメジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ること。ビジネス、旅行、イベント、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に社会のA面B面を深堀していく。
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