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コラム

2020-10-12

SCALE ACADEMY_第4回 見立て力 Situational Forecasting Ability

PRパーソンが継続して学びを得られる「SCALE PR ACADEMY」。先月の「背負い力 Spokesperson-Ship」に続き、第4回は「見立て力 Situational Forecasting Ability」をテーマにしたセッションが9月24日に開催された。

 

PRパーソンに求められる「見立て力」。メディア視点でコンテキストを付与し、ニュース価値の最大化に必要なこと

 
毎回、PRパーソンの学びを提供している「SCALE PR ACADEMY」。第4回は「見立て力(Situational Forecasting Ability)」をテーマに、世の中の文脈や時流を把握した上で、PRパーソンとしての「最適解を見いだす」ためのスキルについて議論が交わされた。

PRパーソンは時に「積極的にPRすること」や「PRせずに戦局を見守ること」など、常に社会全体の空気感を把握し、先を見越したアクションを考えなければならない。

さらに、商品やサービスにとって、何が有利あるいは不利な「状況」であるかを見立てる力も、めまぐるしく変わる社会情勢の中で必要になる。
 

 
去る9月24日に開催されたセッションでは、株式会社博報堂ケトル クリエイティブディレクターの嶋 浩一郎氏と、第二回に続いて株式会社メルカリPRチーム マネージャーの矢嶋 聡氏が登壇し、PRパーソンに今求められる見立てる力について掘り下げる機会となった。
 

PRには世の中に流れる“風”を読む力が必要

 
第1部のInspiring Sessionでは「現象の中で商品・サービスを語る「見立て力」とは?」と題して、博報堂ケトルの嶋氏がPRパーソンに今求められる「見立て力」について掘り下げるセッションとなった。

博報堂ケトルでのクライアントワークを通して、PR視点に立った発想の元、様々なキャンペーンを経験してきた嶋氏にとって、そもそもPRする上で必要なのは「世の中に流れる“風”を読む力が必要」だという。

「これまで様々な案件に携わってきましたが、とかくクライアントからはスペックに寄った文脈で依頼いただくことが多くなりがち。なので、あらかじめ企業の言いたいこと、伝えたいことをそのまま発信しても、あまりニュースにならないということを前提に理解いただき、いかに時流の文脈に乗せながら広くあまねく発信できるかを考える必要性がある」

博報堂ケトルの社是は「恋と戦争は手段を選ばない」というユニークなものを掲げている。

これはすなわち、クライアントの課題解決のためにはどんな手段・方法でもいとわず、様々なアプローチや発想のもとで価値の最大化を行うという姿勢が表れていると言えよう。

「コミュニケーション領域全般を見るのがPRパーソンの仕事。今の世の中は“共創”の時代と呼ばれ、ナラティブなストーリー性が求められる中、生活者と企業との関係性構築や、社会とのニュートラルな合意形成を図るための手段に縛られない発想ができるPRパーソンは、どの企業にも必要不可欠になっているでしょう」
 

マーケティングのPR化。「スペック」よりも「共感」が重視される

 

 
そんな社会情勢が背景にある中で、今リアルで起こっている「状況」や「現象」を見立てる力が必要となってくる。

PR視点に沿ったストーリーテリングや、これまでの市場におけるポジショニングをどう取るかではなく、社会においてどう貢献していくかというパーパスに沿ったアクションが大切になってくるわけだ。

「コトラーのマーケティング理論を参考にしている方も多いと思います。『マーケティング1.0 』では不便益の克服、『マーケティング2.0』ではスペックの差別化、そして今進行中なのが『マーケティング3.0』の社会における共感なんです。

 商品のスペックよりも『こんな体験できたら素敵、こんな生き方ができたらいい』という訴求軸の方が時代にそぐう形となっている。マーケティングのPR化とも言われますが、要は広告やマーケティングでもPR発想のコミュニケーションを必要としているんですね。これはコロナ禍でより一層加速したなと感じています」

最近発売された雑誌のタイトルやコピーを見ても、如実に変化が現れているのだという。
かつては「かっこよさ」や「エンタメ的要素」などが文字に躍っていたのが、「これからの生き方」や「サステナブル」といった考えに沿ったものを取り入れている。

最近の社会情勢を反映し、時代はエッセンシャルを求めているのが見て取れるのだろう。
 

ブランドの存在価値やストーリーテリングの大切さ

 

 
時代に求められる考え方やニーズが変化する一方で、企業もまたブランドの存在価値を改めて見つめ直し、ブランドストーリーを形成していかなくてはならない。

嶋氏は過去の歴史の中で、PR視点に立ったストーリー創りの好例についていくつか紹介した。

「ギネスブックやミシェランがいい例だと思います。どちらも『古今東西の様々な世界一』と『訪れる価値が極めて高い星付きのレストラン』という、一見運営する会社の商品とは結びつかない。しかし、『ビール』や『タイヤ』からインスパイアされる体験やライフスタイルにまで昇華させ、ストーリーの中にブランドを登場させるコミュニケーションを行っているからこそ、世の中に広く知れ渡るきっかけになった。

 また、ハイファッションブランドのティファニーも、まとう者の気品さや品格を表した『ティファニーのテーブルマナー』という本を出版し、ブランド認知や価値を高めることに成功しています」
 

社会の動き・現象の中で商品を見立てるとは?

 
PRパーソンは、企業の商品やサービスを世の中に広く伝えていくために、単にスペックを語ることだけでなく、社会的背景や現象の中で「どう見立てるか」を考えることが大切だ。

嶋氏は見立てが功を奏し、パブリシティを多く獲得した事例として、トヨタの電気自動車(EV)を引き合いに出して説明した。

「数年前まで、EVは『キャンプに行った時でも電化製品が使用できて便利』という訴求だったのが、去年は『災害時に身を守ってくれる車』として世の中に広まりました。その中でもトヨタは『72時間生き延びれる』という切り口でPRしたことで大きな話題を呼んだ」

2019年は台風や洪水が多く、日本が災害大国であるというファクトが浮き彫りになった年だ。

こうした社会背景を前提に、EVという商品を見立てたときに、どう行った切り口でメディアにアプローチすれば認知拡大や広くブランド訴求をできるか、という視点でPRしていくことが重要だと話す。

「メディアのインサイトしては、企業の商品のスペックを世の中に伝える筋合いはありません。むしろ、今ムーブメントになっている社会現象を伝えたいのが本音です。それに合わせた形で打ち出せば、様々な媒体に取り上げられ、パブリシティを多く獲得できる可能性が高まります」

つまりこういうことだろう。レクサスのSUVをPRするとして、単純にスペックの部分を打ち出せば、新商品紹介のみの記事しか露出は期待できない。

ただ、ここにひと工夫加えて、社会現象を汲んだ切り口を考えてみるとすれば、「他社含めてラグジュアリーSUVが人気」という切り口のもと、メディアアプローチすれば、違った取り上げ方や、思いもよらぬメディア掲載に繋がり、広くリーチできるかもしれない。

商品やサービスなど、PR主体となる対象は企業により違えど、共通して言えるのは「現象を牽引して見立てる」ことが大切になってくるだろう。
 

「社会記号」は市場と文化を作るドライバーになる

 
嶋氏は現象の中で商品やサービスを見立てる際に、鍵になる言葉として挙げるのが「社会記号」だ。

著書『欲望する「ことば」〜「社会記号」とマーケティング』の中で考察する社会記号という捉え方は、市場と文化を作るドライバーになっており、今までにない現象をキーワード化することで、広く世の中に認知されていくようになるという。

女子力、おひとりさま、草食男子、インスタ映え、終活などの造語ができると、人々の行動が変わり、やがて社会に定着していく。

「社会記号はメディアも大好物であり、取り上げる対象として考えやすい。一番いい見立ての方法論は、社会記号に合わせて商品やサービスを語ること。どんなに商品やサービスの良さ、ハイスペックな機能を訴求するよりも、世の中を俯瞰で見たときに社会記号として表された言葉の文脈に沿って、メディアにアプローチする方がいいでしょう。

 企業側が意図して社会記号を作ることは難しいので、PRパーソンはどんな現象が世の中で起きていて、その渦中にある生活者のインサイトがどのようなものかをメディアにうまく気づかせることができるかが大事なんだと思います」
 

見立てる際に意識しておくこと

 
企業は自社の商品やサービスを売りたいというのが根底にあると思います。これは資本主義社会において利益を追求するためで、企業活動としてごく自然なこと。

それらを社会のどんな現象で語れるか考えるには「見立てる」ことが必要になるだろう。

嶋氏は、PRパーソンが「見立て」をする際に、意識しておくべきポイントについて次のように説明する。

「前述したように、メディアはネタとなる現象を見つけて記事にしたいというインサイトを持っています。ここで意識すべきことは、自社のものだけでない横並びになる商品やサービスを把握しておくこと。さらにはそれが異業種にまでまたがると、『社会の中で現象になっている』ことの裏づけができ、メディアの関心が高まります」

メディアの特性を理解し、いかに先回りして世の中の動向や社会の現象を捉え、ブランド・ストーリーに乗せられるかがPRパーソンに求められる見立てる力なのではないだろうか。
 

 
セッション後に行われた質疑応答では、社会のコンテキストに合わせた形で見立てるための手法やPRに関する様々な質問が寄せられたが、その中から一部を紹介したい。

まず、現象を見立てないとダメだとわかっていても、意外に難しくてできないという質問に対して、嶋氏は次のように説明した。

「『社会記号』と『キャッチコピー』は違います。どちらかといえば、言葉の作り方ではなく、社会で起きている現象をいかに嗅覚で感じられるか。空気を読めるかが重要です。言葉のセンスはべたでいいので、現象を見つけてストーリーを立ててみる。

 物語は自分で創るのではなく、『他人からストーリーの種を見つける』ことで創るものだと考えています。そういう意味では単なる情報収集だけでなく、人の思うことや所作を観察し、思慮深く観察してみると、PRの文脈やストーリーを考える際に参考になるのではないでしょうか」

次に、良い見立てを作り、言い得て妙な表現に落とし込むためのポイントについて質問が寄せられた。それに対し嶋氏は次のように回答する。

「自然発生的に生まれる社会記号のほか、メディアが作る社会記号もあります。見立てをするときは、PR的にどういう方向に持っていきたいかにもよると思います。注意したいのは、クライアントのオリエンベースに考えてしまうこと。もちろん、商品の知識に詳しくなるのは大前提ですが、生活者のインサイトは人の心にこそあるもの。

 世の中の人が考えること、心に抱いていることを先回りして言語化してあげることが大切です。最適化された検索上位ワードには出てこないので、ちょっと新しいくらい(半歩先)がちょうどいいと思います」

PR発想を起点に、社会の文脈や時流を汲んだコミュニケーション設計を行い、世の中のファクト情報をどう編集すべきか考えることが大切になってくる。

同時に、メディアが取り上げたくなるような「見立て」をしてこそ、PRパーソンの仕事としての極致なのではないだろうか。
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古田島大介

ライター
2014年2月に「The life always new」をコンセプトにCINDERELLAを創業。ジャンルに問わず、キュレーションメディアやSEOライティング、タイトルワーク、記事ネタ出しなどに携わる。 最近では取材ライターとして国内外の観光スポットやイベントに足を運んだり、企業ブランド・サービスのインタビュー取材を主に従事。 またSNSや繋がりのあるPR会社から送られるプレスリリースをもとに、執筆依頼をいただく場合もあり、活動は多岐にわたる。 モットーはメジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ること。ビジネス、旅行、イベント、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に社会のA面B面を深堀していく。
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