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コラム

2021-06-09

SCALE PR ACADEMY 第2期 第2回マルチ憑依力

 
広報・PRやマーケティング分野の第一線で活躍する人物を客員講師として招き、半年間に渡る講義で継続的な学びの機会を提供する「SCALE PR ACADEMY」。

先月の開講式(https://scale-pr.com/column/MgXPq)に始まり、いよいよ第二期の本講義がスタートする。

近年めまぐるしく変わる社会情勢を理解し、多様なステークホルダーや社会に求められるニーズを把握することが重要味を帯びている。

そんな状況下で、PRパーソンに必要になってくるのがマルチ憑依力だ。いかなる場面においても柔軟に対応する力や時流を読み解くことが重要になってくるだろう。
 
5月28日に行われたSCALE PR ACADEMY第2回「マルチ憑依力(Multiple Stakeholder Adaptability)」では、登壇者に古田 大輔氏(ジャーナリスト / 株式会社メディアコラボ代表)と上村 嗣美氏(株式会社サイバーエージェント 全社広報室 シニアマネージャー)を招き、マルチ憑依力にて掘り下げるセッションなった。
 

読み手の心情を先回りし、疑問を持たれそうなところは説明を入れる

 
第一部のInspiring Sessionでは「自己内対話してる?- マルチ憑依力-」と題し、古田氏がスピーカーを務めた。

2002年に入社した朝日新聞では社会部や海外支局、デジタル編集部と渡り歩き、その後はBuzzFeed Japanの創刊編集長へと転身し、カッティングエッジな記事を数多く執筆。

現在はジャーナリストとして活躍する傍ら、自身が立ち上げた会社の代表やGoogle News Labにてティーチングフェローに携わるなど、マルチな活動を行っている。

そんな古田氏がBuzzFeed Japan時代に取材した「ゲイとトランスジェンダーと母と子 新しいファミリーが生まれた」を具体例に、どのような視点で取材・執筆していったのかを紐解いた。
 

 
LGBTQというテーマは、本質を見誤ると批判的な人たちから槍玉に挙げられるリスクもある対象で、発信する企業やメディアは想定されうる受け手の反応、そして取材対象者や読者の心の奥底まで汲み取ることが問われる。

マルチ憑依力がかなり試されるといっても過言ではない。そんなテーマを扱った記事を書く際、どのような段取りで進めていったのだろうか。

古田氏は「批判が一定数出ることは想定の範囲内において、ネガティブにうけとりがちな人の意見も真っ向から否定しないよう配慮した」とし、次のように説明する。

「LGBTQを取り巻く状況は複雑で、多方面の見方を意識しながら言葉に落とし、執筆していく必要性が求められました。この記事で最も伝えたい情報やメッセージは何で、どんな人に伝えたいか。また、記事を投稿した際にどこまで拡散するのか。インタビューイ(取材対象者)の悩みや戸惑いといったリアルな想いを、取材を通して文字にしていくわけですが、リスキーな部分に関しては綿密に推敲を繰り返し、疑問を持たれそうなセンテンスには説明を加えて、読み手を蔑ろにしないよう努めました。打ち出し方を間違えると、途端に批判される的になってしまうゆえ、読み方によってはネガティブに受け止められる危険があると思った際は何度も書き直しを行い、記事公開まで繋げたのです」

だが、炎上や批判を恐れ、当たり障りのない記事にしても、読み手には刺さらないコンテンツになってしまうだろう。

古田氏は「記事で伝えたいコア・メッセージを根本に据え、軸はずらさないことを意識する」のが重要な視点だと話す。

「この記事のコア・メッセージはシンプルに『赤ちゃんの誕生、おめでとう』というハッピーなもの。ただ、LGBTQの子育て事情はあまり社会的認知がされておらず、そのまま事実を書いたところでイメージが湧かない状況だった。だからこそ、多様性ある社会へ着実に変化しているということを知ってもらうひとつのきっかけになり、この記事がポジティブなメッセージを発信する役割を果たせればと考えたわけです。ナラティブという言葉がありますが、まさしく言い得て妙で、『語り手』と『聞き手』の双方の視点を意識し、さらには『読み手』が受ける感情を先回りしながら利害調整を図っていきました」
 

“憑依”することに囚われすぎて、俯瞰的な立場を忘れてはいけない

 
セッション最後には、PRパーソンに向けて自己内対話の重要性について説いた。
例に出したのは、日本を代表する政治学者・丸山眞男の著書『自己内対話―3冊のノートから』の一節からだ。

“俺はコーヒーがすきだという主張と俺は紅茶がすきだという主張との間にはコーヒーと紅茶の優劣についてのディスカッションが成立する余地はない。論争がしばしば無意味で不毛なのは、論争者がただもっともらしいレトリックで自己の嗜好を相互にぶつけ合っているからである。自己内対話は、自分のきらいなものを自分の精神のなかに位置づけ、あたかもそれがすきであるかのような自分を想定し、その立場に立って自然的自我と対話することである。他在において認識するとはそういうことだ”(みすず書房、1998年)

「要するにコーヒー好きも紅茶好きも人それぞれで、お互いが自分の好みをぶつけ合うだけでは生産的な議論にはなりません。コーヒー好きの人間が俺は紅茶が好きかもしれない、と仮定して自己内で議論することで対話が成立する。PRパーソンはPRの対象となる企業やサービスの認知度向上やブランド価値を高めるために広くあまねく訴求をするわけですが、クライアントやユーザーや情報の受け手のそれぞれの立場に立って自己内対話を意識した方がいい。自社の言いたいことだけ伝えても一方通行になるだろうし、反対に受け手のことばかり気にしてもいけない。マルチ憑依力にある“憑依”とは、忖度することでも、受け手の思惑を全て受け入れることでもありません。いろいろな利害関係者に憑依しようと意識すぎてしまい、PRという俯瞰的な立場であることを忘れてしまう場合もあるので、そこは注意するべきポイントでしょう」

多様化するステークホルダーの価値観はもとより、ソーシャルメディアから醸成される世論は瞬く間に広がっていく。

「こんな伝え方をしたら、受け手は一体どう思うのか? 」

自分の中で考えを咀嚼し、自問する。そして憑依するかのごとく、様々なステークホルダーの視点に立って考える。

自己内対話とマルチ憑依力は、まさに切っても切れない関係性があると言えるのではないだろうか。
 

PRパーソンにとってマルチ憑依力が必要なわけ

 
第二部では、長年サイバーエージェントにて広報・PRに携わってきた上村氏による「広報の現場から考える、SDGs/ESG時代のマルチ憑依力」と題したWorking Sessionが行われ、現場視点でマルチ憑依力の重要性を考える機会となった。

はじめに、上村氏はPRパーソンにとってマルチ憑依力がなぜ必要なのかについて説明した。

「PRパーソンは企業や事業、商品、人物といったPR対象物の代弁者となり、それらのバリューアップや永続的な発展に繋げていくのが役目です。その上で、企業を取り巻くさまざまなステークホルダーを理解するとともに良好な関係を構築していき、企業や商品を取り巻く社会環境を向上させる必要性がああります。見込み客の獲得や信用構築、人材採用などPR施策によって目的は異なりますが、同時に関係するステークホルダーも変わってきます。そのため、今の時代にPR対象物の価値を上げていくにはマルチ憑依力が求められるのです」

サイバーエージェントのような多種多様な事業を展開する企業であれば、各現場と連携しながらステークホルダーと相対して「何を」「どう伝えるか」を判断していかなければならない。
 

自社に寄らず、いかに“追い風”を作れるか。大局的な視点で利害を見出す

 

 
では、具体的にマルチ憑依力を現場でどのように生かしていけばいいのか。
上村氏は現在取り組んでいる「スポーツベッティング」の事例を掲げ、こう説明する。

「日本におけるスポーツベッティング解禁はサイバーエージェントも所属する新経済連盟が政府へ提言していますが、当社としても『どうやって追い風を作るか』を意識しています。海外では既に浸透しているスポーツベッティングですが、解禁となるとその是非への議論が生まれるのは当然のことです。コロナ禍で苦境に立たされるスポーツ業界の視点に立ち、スポーツ業界の新たな収入源としての可能性や、動画配信を通じてマイナースポーツの普及にも寄与することなど、スポーツベッティングによって生まれる社会的なメリットへ光を当てる必要があります」

その先駆けとして、「もし日本でスポーツベッティングが解禁されたら?」という仮定のもと、推計した市場規模をプレスリリースとして発表したという。

「スポーツベッティングの市場規模を推計して公表することで、その経済効果の大きさからユーザーやスポーツ関係者、企業などを中心に世の中の関心が高まり、オープンな議論へ一歩近づいたと考えています」
 

多様なステークホルダーの状況理解に努めること

 
そして上村氏は、現場視点でマルチ憑依力を発揮するために意識しておくべきことを例示し、「多様なステークホルダーの状況理解に努めるのがPRパーソンに大切な素養になる」と語る。

「まずは企業におけるSDGsやESGの重要性が問われる時代となり、その取り組む姿勢が注目されるようになったことは抑えておく必要はあるでしょう。また、マスメディアからSNSへと情報伝達の構造が変化したことで、企業と顧客との接点が多様化しています。これは、個人の声が世の中に伝搬しやすくなったことでもあり、社会とのギャップや企業のモラル不足など、ほんの些細なことであっても一人のSNSへの投稿が多くの人に拡散され、炎上するリスクもある。

つまり、想定しうるリスクヘッジを鑑みて行動に移さないと思わぬところで足をすくわれてしまうので、肝に命じながら広報PR活動を行う必要があります。さらに、コロナ禍というエポックメイキングな出来事が起きたことで、人々の価値観やライフスタイルが変化したことも見逃せない点だと思います」

「業界の常識だから、一般的な価値観だから」という固定観念や押し付けはもはや、
通用しないであろう。

社内や業界のルールが当たり前なのではなく、企業や商品そのものの存在価値や、どれだけ社会へ貢献できているのかという本質的な部分が問われる時代になっているわけだ。

次回は、企業やブランドを背負う“代弁者”としてPRパーソンが振る舞うために必要な「背負い力」について議論を深めていく。

エントリーはこちらから。
https://scale-academy2.peatix.com/
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古田島大介

ライター
2014年2月に「The life always new」をコンセプトにCINDERELLAを創業。ジャンルに問わず、キュレーションメディアやSEOライティング、タイトルワーク、記事ネタ出しなどに携わる。 最近では取材ライターとして国内外の観光スポットやイベントに足を運んだり、企業ブランド・サービスのインタビュー取材を主に従事。 またSNSや繋がりのあるPR会社から送られるプレスリリースをもとに、執筆依頼をいただく場合もあり、活動は多岐にわたる。 モットーはメジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ること。ビジネス、旅行、イベント、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に社会のA面B面を深堀していく。
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