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コラム

2022-06-09

SCALE PR ACADEMY 第3期「マルチ憑依力」

 
広報・PRやマーケティング分野の第一線で活躍する人物を客員講師として招き、半年間に渡る講義で継続的な学びの機会を提供する「SCALE PR ACADEMY」。

先月の開講式(https://scale-pr.com/column/MgXPq)に始まり、いよいよ第3期が開講。第一線で活躍する客員講師陣を招いた講義が開催される。
 
去る5月31日には最初の講義「マルチ憑依力」が行われた。
マルチ憑依力とは、多様なステークホルダーの視点やインサイトをまるで憑依するかのように深く理解し、柔軟に対応していくための力だ。

激動の社会においてPRのニーズが多様化し、より一層柔軟かつ適切なステークホルダーとの合意形成が求められている。

企業を取り巻く社会環境はもとより、従業員やメディア、取引先、消費者、株主などさまざまな立場に立って、まるで憑依するがごとく「瞬時にスイッチングできる力」がPRパーソンに必要不可欠な素養になっていると言えるだろう。

PRパーソンがマルチ憑依力を身につけるために必要な考え方やエッセンスについて、Forbes JAPAN 執行役員 Web版 編集長の谷本 有香氏、kipples 代表の日比谷 尚武氏がそれぞれ講義を監修し、本田哲也との議論を交わした。
 

「Why」を語れないと、読者へきちんと情報が伝わらない

 
第1部のInspiring Sessionでは「PR新時代、メディアと考える広報が身につけるスキルとは」と題し、谷本氏が講義を行った。

谷本氏がWeb版 編集長を務めるForbes JAPANは、Forbesというアメリカに本社を構える媒体が母体となっており、海外とのネットワークをたくさん持っているのが特徴だ。

Web版も雑誌も約半分を海外に関するコンテンツが占め、グローバルな視点からメッセージを伝えているのが優位性につながっている。
 

 
そんななか、谷本氏はForbes JAPANが大切にする「ポジティブジャーナリズム」について説いた。

「メディアはややもすると、PV至上主義になりがちで、センセーショナルな出来事を取り上げたり、目を引くタイトルワークを重視したりする傾向があります。もちろん、メディアを運営する上では重要な要素ですが、我々Forbes JAPANはポジティブジャーナリズムを掲げ、ネガティブな記事は一切やらないと決めています。リーダー層や次期経営層の読者に向け、ビジネスを切り拓くためのヒントになるようなコンテンツを届ける。そう心がけ、メディアを運営しています」

また、かつては男性の読者が8割を占めるビジネスメディアだったが、コロナ禍を契機に読者層が急速に変化。今では男性6割、女性4割の割合になっているという。

「リモートワークが常態化したことで子育てや家事にかける時間の制約が一気になくなり、ビジネスやキャリアに役立つ情報を取ろうとする機運が女性のなかで高まったのが、要因だと考えています」

目まぐるしく社会情勢が変わり、さらには多様な価値観を受容するZ世代やα世代が読者となる時代。
情報の発信側であるPRパーソンは、どのようにメッセージを伝えれば企業価値を高められるのか。
ステークホルダーの真意を汲み取り、いかにメディアと協力しながら社会とのコミニュケーションを図っていけるかが重要になるだろう。

かつては、メディエーターとして企業が出すファクトを取り上げ、情報発信していくことが求められたが、谷本氏は「なぜそのファクトを取り上げるのか、どうして我々のメディアなのかを明確にすることが重要になっている」と話す。

「PVが多いから、あるいはターゲット層とマッチしているといった理由だけでは、読者にきちんとした情報が伝わりません。『Why』の要素が大事であり、PRパーソンは聞かれたら答えられるような状態を作っておくことが、より一層求められることでしょう。実際にForbes JAPANにはさまざまなお話をいただきますが、この『Why』が明確化されていない場合は記事にしないというスクリーニング体制を構築しています」
 

PR新時代に求められる3つの力

 
加えて、コンテンツの受け手側であるZ世代やα世代のニュースに対する見方も変わってきているそうだ。

谷本氏が大学で講演する際、学生に「どういった媒体を使ってニュースを見ているか」と毎回問いかけているそうだが、次のような回答が寄せられたという。

「ニュースを知るきっかけの1位がTikTok、2位がTwitter、そして3位がInstagramでした。この結果を見るに、動画やビジュアルがメッセージとして非常に大事にされていると感じました。要は自分ごと化できるかどうかは、瞬時に判断されてしまうわけです。そのため、プレスリリースのようなテキストではなく、短い時間でニュースバリューを伝えられるように意識するのが大事になります。こういった背景を踏まえていないと、簡単にスルーされてしまうでしょう」

こうしたなか、PR新時代の特徴として「DOINGからBEINGへとシフトしている」と谷本氏は話す。

「ひとつの情報や出来事、コンテンツを切り取るのではなく、読者と常に寄り添い、一緒にいなくてはならない。Forbes JAPANでは経済メディアとして単に記事を出さずに『経済に寄与するメディア』として読者と共に経済を創っていくことを大切にしています」
 

 
また、こうした時代においてPRパーソンが抑えるべき3つの力を谷本氏は紹介する。

「まずは、時代の長いスパンのなかで、なぜいまここでこういった打ち出しをするのか。また10、20年後にどう繋がっていくのか。という未来から逆算し、メッセージにどう落とし込むかを考える『俯瞰力』が求められます。加えて、ファクトをただ打ち出すだけでなく、なぜいまこういった打ち出しをするのか。そして、長い歴史を経て積み上げてきた価値をどう解釈し、今の社会に合った言葉で編集し、ステークホルダーに届けるかという『編集力』も大切です。さらに、経済的バリューやブランドバリューを付与するための『創発力』も必要不可欠になります」
 

ファクトを俯瞰し、どう編集すれば読者に刺さるかを考える

 
最後にForbes JAPANが取り上げた記事の中から参考となる事例を掲示し、Inspiring Sessionを締めくくった。

「まずは、医療現場で使用する手術器具を作る高山医療機械製作所の記事をご紹介したいと思います。この記事は、単によく切れるハサミというファクトだけを切り取らず、同業の医者のみならず、多くの読者にいかに自分ごと化してもらえるかを考えながら切り口を見出していきました。

取材を通してヒアリングしていくなかで、脳神経外科医の上山(博康)先生と共同で開発し、世界中の外科医が集う展示会で評判になって注文が殺到したことに着目しました。上山先生と組んだことで相乗効果が生まれ、ビジネスが加速をさせた事例は、中小企業に必要な『バディの法則』を見事に体現したものでした。誰と組み、誰がアンバサダーになりうるかというのは、多くのビジネスパーソンにとってもヒントになるコンテンツとなりました」

次いで紹介したのは、ロボティクスベンチャーのテレイグジスタンスだ。

同社は自分とは別の場所にいる分身ロボットを遠隔操作できるテクノロジーを有しており、まるで“幽体離脱”しているかのような新しい体験を得られることに注目したという。

「似たようなロボットが多く登場しているので、ほかと何が違うかをまず考えたんです。いろいろと掘り下げてみると、もう一人の自分を遠隔から見ているような感覚が斬新なことに気づいた。これを幽体離脱というワーディングで表現し、『憑依ロボット』と打ち出したことで、多くの読者に興味を持ってもらう記事に仕上がりました。編集力を生かし、新しいメッセージやサービスの価値を伝えることで、記事を出したときの反響を最大限に高めることができた好例だと思っています」

既存の捉え方ではなく、PR対象を俯瞰して見つめ、言い得て妙な表現に編集できるか。
谷本氏が説明したPR新時代に必要な3つの力は、ぜひ身につけておきたいところだろう。
 
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古田島大介

ライター
2014年2月に「The life always new」をコンセプトにCINDERELLAを創業。ジャンルに問わず、キュレーションメディアやSEOライティング、タイトルワーク、記事ネタ出しなどに携わる。 最近では取材ライターとして国内外の観光スポットやイベントに足を運んだり、企業ブランド・サービスのインタビュー取材を主に従事。 またSNSや繋がりのあるPR会社から送られるプレスリリースをもとに、執筆依頼をいただく場合もあり、活動は多岐にわたる。 モットーはメジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ること。ビジネス、旅行、イベント、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に社会のA面B面を深堀していく。
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